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モノの値段の不思議。博多ラーメンの経済学



Hakata Kuro Ramen / TheGirlsNY

2013年4月。牛丼チェーン大手、吉野家を運営する吉野家ホールディングス(東京都北区)は、主力商品である牛丼並盛の価格を380円から280円に値下げした。

熾烈な競争と厳しい経営環境にある外食産業。そこに押し寄せる低価格化への圧力。デフレ日本の象徴的な風景で、アベノミクス効果で少しは和らぎつつあるとはいえ、依然としてこの傾向は、改善の兆しが見えてこない。

そんな、外食産業にあって不思議な価格の推移をしている分野がある。ラーメンである。今回は、「博多ラーメン」に着目し、モノの値段の不思議を探ってみたい。

ラーメン一杯700円。

東京在住の方なら、妥当な価格と感じるであろうが、博多ラーメンの地元、福岡市ではそうではない。よほどのラーメン通の方でもない限り「700円は高い!」と感じるだろう。博多ラーメンの標準的な価格帯は、400~600円だからだ。

豚骨スープを使用する博多ラーメンは、他の素材を用いるラーメンよりも原価が低いとされる。しかし、安い価格設定をする要因は、ラーメンの食べ方にある。ご存知の方も多いだろうが、博多ラーメンには「替え玉」というシステムがある。麺だけをお替りすることができるのだ。この追加の麺の価格がおおむね100円。店側は、ラーメン+替え玉をベースに客単価をはじいていると考えられ、そのためラーメンの麺の量は少なく、成人男性なら替え玉をしないと量的に満足できないようになっている。それでも、替え玉込みでもワンコイン程度で満腹になる店も多く存在することでもある。

この博多ラーメンの「福岡価格」は、日本がデフレ経済に転落する以前から続くもので、庶民の味としての博多ラーメンは福岡の食文化に根付いている証明でもある。

ところが、この「福岡価格」が動き始めた。味に定評があり、マスコミに採り上げられることも多いA店は、ラーメン一杯750円、替え玉が150円になった。この店のライバルと目されているB店(店主のTV出演も多い)は、替え玉こそ100円だが、ラーメンは700円で提供している。

この2店で食事をすれば、1人あたりラーメンに1000円に近い出費となる。博多っ子は、ラーメンが大好きで有名店が値上げしても喜んでそれを受け入れる・・・というわけではない。

ラーメン好きを自認する人々のこの動きに対する評価はおおむね辛い。ラーメンのおいしさは認めつつも品質と価格のバランスが合っていないことがその理由だ。福岡価格を逸脱している以上、この2店は、庶民が頻繁に通う店ではなくなっている。


Hakata Ramen / mdid

では、この2店。なぜこのような戦略をとっているのだろうか。

この2店の店舗展開を見れば理由が見えてくる。博多のラーメン店でありながら、店の数は両店とも関東エリアの方が多いのだ。先ほど述べたとおり、東京でのラーメンの相場は、700円。東京の店舗で提供している「東京価格」に沿って福岡の店の値段を変えたのだろう。

こうしてみると、2店の収益構造が見えてくる。この2店は、「関東でかなりもうかっている」のだろう。福岡での強気に見える高価格化路線は、そのような背景があるからだと考えられる。関東で確実にもうけを出し、福岡では多少の客離れをおこしても高価格化で収益を補うという戦略である。さらに福岡を訪れる観光客が、足しげくこの2店に通っていることも追い風になっているのだろう。

低価格を求める地元民を切り捨て、高価格でも喜んでお金を出す人々へ向けて商品を提供する。これもビジネスのやり方である。もちろんそれに値する味を持っているという自負心があってのことだろう。現在は、それがうまく機能しているようである。

モノの値段は、だれが決めるのか。それは、消費者が決めるのだ。やり方次第では高く値づけしても買う人は買うのだ。ただ、高価格化へシフトできる金脈は、そうたくさんあるわけではない。ただ、探そうとすれば、案外身近にあるものだとこの2店の戦略は教えてくれる。

冷静にみるとこの2店の戦略はあぶない橋を渡っている面もあるし、サービス業の本筋を逸脱しているような気がしないでもない。ただ、ラーメン一杯にも小さな経済が潜んでることは、とても面白いといえる。あなたの生活も経済の一部だ。いつもより高くアンテナを張ってみよう。いろんな経済が見つかるはずである。

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